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とりあえず日々思ったことなんかをつらつらと。

 

屈折する星屑

屈折する星屑

江波光則:著
雨水龍:イラスト
ハヤカワ文庫JA


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江波さんの新作。
ハヤカワ文庫からはもう一作、「我もまたアルカディアにあり」という作品が出ていますが、それと同様、SFテイストの作品となっています。が、ストーリーのガジェットとしてスペースコロニーや宇宙船、ホバーバイクなどが出てきますが、内容的にはガガガ文庫で刊行された江波作品に似たテイストとなっていて、「我もまたアルカディアにあり」とはまた違ってSFじゃなくても話は成り立つなぁと思いました。

主人公ヘイウッドは屈折した青年。青春時にありがちな刹那的な思考で生きている人物です。オートジャイロを切ったホバーバイクを乗り回し、コロニー内の人工太陽にタッチするというイカロスダイブと言われる危険行為を繰り返しているような青年です。
最初はヘイウッドが恋人のキャットと、イカロスダイブで息まいている姿を描くところから始まります。ライバルであるヴィスコンティを負かしていい気になり、危険な行為から生き残ったという酩酊感に酔うという、そんな暮らしをしている青年でした。
この雰囲気は廃棄コロニーである物語の舞台となっているコロニー全体に広がっていて、若者たちは大体同じような感じの人物だったりします。
また、大人たちも何も言わない。かつて自分たちがそうだったから、そして今も適当に過ごしていても生活できてしまうコロニーのシステムにどっぷりと浸かっているから。ただ1人だけヘイウッドが会話し、ヘイウッドに「考えろ」と諭すのはジャンク屋の親父であるアンクルアーサーだけという状況でこの物語は始まっていきます。
このアンクルアーサーの「考えろ」というのが後々にかなり重い台詞というか、ヘイウッドの人生を変えていく切っ掛けになっていきます。

そんな状況で始まるこの物語。
隕石にへばりついた状態で1艇の軍用宇宙艇が落着することで、ヘイウッドの人生が急転していきます。
隕石の落着事故に巻き込まれたことで恋人であったキャットを失い、空へ上がる気力を失い、地上で狂犬のように生きるようになったり。ライバルであったヴィスコンティが空で後輩に負けたことから、マシンの修理を依頼されて空へ上がることを取り戻したり、隕石に乗ってやってきた脱走軍人で亡命者であるジャクリーンとのかかわり合いを得て、徐々にヘイウッドの中で何かが変わっていく。
読んでいると何かを失いながら過去にしがみつき生きていこうとするヘイウッドの立ち位置というのが悲しく感じます。
ヘイウッド自身もそれには薄々気づいていて、大人=自分の親やジャクリーンを見ながら、何かを考え、何が必要なのかというのを少しずつ、少しずつ蓄積させていきます。
ただ、彼自身はまだ酩酊感の中に居たいと考えていて、でもそれは許されなくて、というのがすごく悲しく思えました。

ジャクリーンとの対決を経て、決定的に子供でいることを、若者の刹那的な思考でいることを禁じられ、それまで考えていた自分の中にあった大人になることを受け入れざるを得なかった、このコロニーがどんな場所であったかを知ってしまった、考えて答えに行きついてしまった中で、どう生きるかの選択を強要される。
そんな物語となっていました。
最後に彼は馬鹿をもう一度だけやることに決めたようでした。そして、腐った世界を破壊することも選び実行した。
馬鹿をやるのはそれに気づき実行したご褒美であったのかもしれません。
子供だった、1人でやってるつもりで、周りに支えられていた。
じゃぁ最後に本当に1人で馬鹿をやろうじゃないか、そんな終わり方。
この後、ヘイウッドがどうなったかは読者の想像に任せるという形で終わっています。

たぶん、ヘイウッドはまっすぐな大人になったんじゃないかな?
汚さを大人の持つ汚さを拒絶して、馬鹿をやった最後の思い出を抱いて、まっすぐでクリーンな大人への階段を上ったんではないか?
僕はそう感じました。
ジャクリーンに諭された結果ではあったけれど、それは結果であって、ヘイウッドはたぶん1人でもたぶんそこへたどり着いた。
いろんな事件が起こったせいで時期は早まったけれど、1人の若者は青春を卒業していったのだと思います。
その過程は苦しく悲しいものであっただろうけれど。いつか彼が世界を楽しめる日がまた来ればいいなと思いました。

読後感がすごく難解に思えて、自分の中で咀嚼するのにちょっと時間がかかった作品でした。江波作品は読みやすくてわかりやすいけれど、ハヤカワで出てるのは甘く見ちゃいけないかもしれないですね。
なんか、ちゃんと読者層を選んで作品を出すレーベルを選んでる気がしました。
これからは気を付けていよう。
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日記は思考が結構、鬱っぽいので鬱日記になること多し。
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